文化を作ってきた「当たり前」の連続

だちばなし03:極めし者たちのディープなはなし

羽田 「〝ハタオリマチのハタ印〟、なんで〝ハタオリ〟ってカタカナで書いたの?」

高須賀「〝機織り〟って言葉を使っている産地って意外と少ないじゃないですか。職人の手を感じるのがここの良さだし、わかりやくPRしたくて」

すっかり秋めいた富士山のお膝元にあるネクタイショップにて、男たちは洗練されたデザインカップで珈琲をすすりながら、あれやこれやと地場産業である織物のこれからを語り合う。「持ち物には人柄が表れる」とは良く言うが、作る側の彼らの目には何が見えているんだろう。

羽田 「この中で一番長いのは僕と鉄っちゃんかな。高須賀とはもう10年くらいか」

高須賀「学生の時からですもんね(笑)それこそ千年もの歴史がある職人さんの街に、ひょこっと入って来たという…」

小野田「生まれた時からうちは染色屋だったしね」

羽田 「そうだね、うちはずっと機屋さんだし。当たり前のように学校から帰ったら親が機織りしていたよなぁ」

小杉 「小野田さんのところも昔から先染めだったんですか?」

小野田「うん。土地によって色々だけどずっと先染め。プロセスを考えると織ってから染めた方が効率がいいんだけど、この産地はそれこそ糸からやるよね、昔から」

高須賀「地域で完結できるチームプレイですよね」

小杉 「産業って聞くと、ボタンをポチって押せばオートではい、完成!ってイメージされがちですけど、この土地に来た時本当に驚いちゃって」

羽田 「全工程で職人が分かれているからねぇ」

高須賀「新しく織物文化を作り出すって、地球上で可能なんですかね?」

羽田 「いや〜、とてもじゃないけど無理でしょう(笑)」

高須賀「色の発注のやりとりって、どうやってます?パントーンの色指定は数字でやったりしますけど」

小野田「パントーンって、テカテカしちゃってわかりづらいじゃんね。素材で色の出方全然ちがうし。頼む側も請ける側も素材感をわかっているからこそ会話が成立するところっていうのはあるよね」

羽田 「シルバーだと光沢があるから明るくなっちゃうよね、とかね」

小野田「染料は三原色が基本だとしても。細かく言えば4〜50色ウチにはあるからなぁ」

小杉 「それぞれ色に関する主観が違うのにそれを合わせちゃうのが凄い…」

小野田「いやぁ〜、でもみんなプロだからさ、その辺は(笑)サンプルを見せながら話の中で〝これだね〟って共通項をたぐっていくんだよね」

高須賀「それが繊維の中に入っていく色なのか外側にのる色なのか、でも違うじゃないですか。凄い領域ですよね」

小杉 「感性の中で光ってくる色のやりとりって必ずかっこいいよね」

羽田 「同じ色って出ないでしょ、いつも。オンリーワン」

小野田「繊維によって変わるよね。シルクの素材ひとつとっても様々だし」

高須賀「あ、水とかでも変わってきます?」

羽田 「鉄っちゃんみたいな職人は無意識に体に染み付いているものはあるかと思うけど」

小野田「いや、昔から当たり前にやってるからわかんないよ(笑)」

高須賀「ワダ・エミさんに聞いた面白い話があって。日本で染めた赤のサンプルを持って行っていざしようと中国で染めた時、茶色くなっちゃって全然染まらなかったんですって。それ聞いたときに、水の影響もあるのかな、って思って」

小杉 「この土地の水って不純物が少ない軟水って聞いているんですけど、そういう意味でも織物に向いているのかな」

羽田 「海外の人には同じように見える赤でも、僕らから見たら全然違う。日本人だけなんじゃないかな?そういう感覚。中国の人と話をしても、『赤』だったら『赤』だし。『青』だったら『青』だし(笑)」

小野田「あるねぇ、そういうこと」

羽田 「これ茶色じゃん!って言っても、『いや、赤です』とか(笑) 」

小杉 「その点、日本の色彩感覚ってハンパじゃないですよね」

羽田 「そう、この色の中にはこの色とこの色が入ってるから、とか凄い細かい」

一同 「(笑)」

小杉 「小野田さんクラスになるともう感覚で色作れちゃいますよね?」

小野田「それは言い過ぎでしょ(笑)」

羽田 「いや、鉄っちゃんとは長い付き合いだけど、本当にそうだと思うよ。この前もたくさんある黒の中で見極めてもらったし」

ディティールとウィットに富んだ会話を聞いていると、今まで身近にあったと思っていた織物が、全く別の崇高なものにすら思えてしまう。職人ならではの深い目線と、ブランドを伝える側のユニークな着眼点。店内の色とりどりのネクタイに囲まれながら、話はまだまだ盛り上がる。

この場所で、未来を織り上げる

高須賀「朝は早いんですか?」

羽田 「僕が小学生くらいの頃はうちは朝起きたらもう寝るまでやってたよ。朝6〜7時から深夜1時とかまで織ってた。今でも時々忙しいときなんて24時間ずっと」

小杉 「えっ、土日もですか?」

羽田 「もちろん!過去にも金曜に注文が入って『月曜日に出るよね?』とかよくあったし(笑)小野田染色さんだってそういうのあるでしょ?」

小野田「そうだね。土日なんてあったもんじゃない(笑)それ普通だよね」

羽田 「むしろ土日も返上してやってた方が気が楽な時もあるよね。電話が来ないから(笑)今でもよくあるけど、糸の在庫がない時なんてもう鉄っちゃんに頭下げるしかないよね。『なんとかよろしく!』って」

小野田「そう、やるしかない(笑)」

高須賀「羽田さんの作品って、染色はほとんど小野田さんですもんね?」

羽田 「そうだね、特にうちの縦糸はほとんど鉄っちゃんのとこで、生地の加工は小杉くんの会社」

小杉 「機屋さんと裁縫屋さんをつなぐのがうちの売りなので。加工は今後とも引き続きお任せください!(笑)」

羽田 「生地のお化粧大事だもんね。繊維によっても違うし、それがどんなものになるかにもよって変わってくるし。感謝してます!」

小野田「ネクタイを手がけたのはいい着眼点だったよね」

小杉 「そうなんです。基本的にウチは服地がメインなのに、そこをあえて選んでお付き合いして貰えてるのは本当にいいご縁だな〜ってつくづく思います」

羽田 「だからこそ、ネクタイ専門の加工屋さんにはできないことをやってくれるから。この前も今までにはなかったすごく面白いものを仕上げてきてくれたよね」

高須賀「違った視点だからこそ出来た、っていう面白さがありますよね。羽田さんのところは紗織りをネクタイに採用しちゃったり。冬用ネクタイのニーパン(※ニードルパンチ)とかもかっこいい」

羽田 「うん。企業っていうのは、確信しないと発展していけないと思う。織物の伝統技術は意地でも残したいと思ってるから。それネクタイにも活かしたかったっていうのはある」

小野田「〝攻めの守り〟だよなぁ」

高須賀「失敗と成功の間で面白いものって出来ますよね。お金のことだけ考えてたら絶対に完成までにこぎつけない」

小杉 「そもそも、この産地ほど家族のみとか少数精鋭でやっているところってないですよね」

小野田「うん、むしろそこが良いところでもあるんじゃない?」

羽田 「伝える側としての高須賀はどんな可能性を感じる?」

高須賀「生き残りの手段としてブランディングするのは一つの手段だと思うんですよ。目指すところは、『メイド イン ジャパン』として請けられる土地として紹介していくのが僕の仕事じゃないか、って。こんな小さなエリアなのに、織物に関する全ての工程をワンストップでこなせる場所なんて他に無いわけですよ。日本のおへそである富士山があって、そこには機織りの中心地がある。それって世界から見てもめちゃくちゃ分かりやすいじゃないですか」

小杉 「この産地だからこそ出来ることの可能性って確かにデカいかも」

羽田 「町ぐるみで〝ハタオリ〟っていうキーワードを使っていくのは面白いかもなぁ。〝ハタオリについては、なんでも出来ちゃうこと〟がこの街の強み、と」

高須賀「そう、この土地って全行程ですごい人ばっかり居るので、全てまとめて“ハタオリ”でいいんじゃないかなって」

小野田「例えば羽田さんだったら、世間でのネクタイのイメージを変えたいっていうのもあるでしょ?」

羽田 「もちろん!お店に来て初めに気に入ってくれるのって大体女性なんだよね。そこにこれからのヒントがあるかも」

小杉 「『ハタフェス』みたいなイベントにも可能性めちゃくちゃ感じますよね。3月からはオープンファクトリーを仕掛けて一般の人でも工場でプロダクトを買えるようにしちゃったりとか」

高須賀「実際に手にとって触ってもらうことによって初めて分かる価値観を大事にしたいんですよ。例えば小野田さんが『これは俺が染めたんだ!』ってお客さんに説明するとかすごくやりたいんですけどねぇ」

小野田「いや〜、俺は裏方でお願いします」

一同 「(笑)」

小杉 「とにかく〝ハタオリ〟っていう文化は一過性で終わらないムーブメントにしていきたいところはありますよね」

羽田 「それにしても最初は学生として参加してきた高須賀が、こんなにこの土地を動かしていくことになるとは感慨深いところがあるよねぇ」

高須賀「来たばっかりの時は本格的に食えてませんでしたからね、僕。デザインしたらお米貰うとか。毎日が物々交換(笑)」

小杉 「多少は無理してでも、僕や高須賀さんくらい同年代の人がこの土地に増えたらさっきの〝メイドインジャパン〟って実現できますよね」

小野田「若者代表!これからの旗振り頼みますよ、ホントに」

高須賀小杉 「頑張ります。もう完全に走り始めちゃってるので(笑)」

日本有数の職人たちが住むまち、富士吉田。
「まだまだ世間にとってハタオリは、近すぎて、遠い。」
彼らはそう言う。

見て、触って、考えて…。
視点をすこし変えれば目の前の“生地”に込められた男たちの情熱が見えてくる。

それは、ともかく彼らのだちばなしは、今日もつづいているのだろう、
織目の一つ一つに想いを込めながら

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