evam eva yamanashi

はなうた日和09:歩いて出会った、素敵な人と店

その服には、凛とした気持ちよさがある。無理なくのびのびと自然体でいられるのに、背筋も心もすっと真っすぐに伸びていくような心地よさを感じる。
手掛けているのは近藤尚子さん。市川三郷町の老舗ニット会社が2001年に起ち上げた自社ブランド『evam eva』のデザイナーだ。

この場所に導かれた
「evam eva yamanashi」

中央市関原の畑が広がる長閑な風景の中に佇む「evam eva yamanashi」に尚子さんを訪ねた。
周りより一段高い土地に広がるそこは、まるで別世界のような空気に包まれている。白壁と竹林に囲まれた敷地には大きな木が何本もそびえ立ち、生い茂る緑が心地いい木陰を作り出す。
緑の中を進んでいくと、昔からそこにあったかのような3棟の建物が現れた。服のショップ「色」、レストラン「味」、そしてギャラリー「形」。
緑を望む大きな窓、おおらかな大屋根、まっすぐに伸びる通り土間。それぞれが個性的な建物なのに、しっくりと調和している魅力的な空間が広がる。
そこで出迎えてくれた尚子さんは、『evam eva』の洋服のイメージそのままの人。澄んだ空気のような透明感があり、柔らかい笑顔を見せながら丁寧に言
葉を紡いでいく。とても優しい話し方だが、背筋がピンと伸びるような凛々しさがあり、そこから伝わってくる想いは力強い。
「私たちがものづくりを行っているこの山梨でいつか店を開きたいとずっと思っていて、それを実現したのがここなんです」
本社からほど近いこの辺りをぐるぐると回りながら土地を探している時に、たまたま見つけたというこの地。当時は鬱蒼とした屋敷跡が広がっていたが、3年の時間をかけて建築家と一緒に『evam eva』の世界をつくりあげた。
「敷地には蔵が残っていたりして、人が暮らしていた気配がところどころに感じられたんです。きれいに整備された土地ではつくることのできない心地よさがありました。この場所と出会った瞬間、導かれたんだなと思いました」

工場の片隅で生まれたファクトリーブランド

尚子さんが手掛ける『evam eva』の洋服は、そのほとんどがリネンやコットン、ウール、カシミヤなど天然素材を使っている。
「削ぎ落した、シンプルなものが好きなんです。洋服も素材の良さを活かしたシンプルなものが好きです」
尚子さんが着ている服も、もちろん自らがデザインしたもの。身にまとった姿からも、その心地よさが伝わってくる。
同社は自社ブランドを起ち上げる前は、下請けでものづくりをしていた。それは必ずしも尚子さんの着たいものと一致していたわけではなく、いつもシンプルなものを作りたいと思っていたという。
また下請けの仕事だけでは先が見えない時代の中で、自分たちで何かやらなきゃという思いが募っていったという。そこから起ち上げたのが『evam eva』だった。

「下請けだと、すごい頑張って作っているのに、どこでどんなふうに着る人の手に渡っていくのか、売る人の顔も着る人の顔も見えない。それはとても寂しいことなんです」
下請けの仕事をしながら、工場の片隅でやり始めたという自社ブランドの洋服づくり。でも尚子さんには作りたいものが明確にあり、できあがったものが世の中に出ていくにつれて多くの人を惹きつけるようになり、『evam eva』の名前は全国で知られるようになっていった。
「初めは商品をセレクトショップなどに持って行って見せていたんですが、やっているうちに気付いたんです。シンプルな服だからこそ、世界観を表現するのが大事だって。商品を置く環境や表現する場も大切にしていきたいと思いました」
そこで東京・青山にショールームを開き、さらにショップもオープンした。当時は3店舗ぐらいになればいいかなと考えていたというが、ブランド起ち上げから18年を経た現在、全国に18店を構える。

自分の時間を過ごしてもらえる場に

18店舗は2つとして同じスタイルはない。ブランドとして同じパッケージでやることは考えていないという。
「建築家は同じですが、店を出すたびに違うものになっています。場所などに応じて、どんな雰囲気でやっていこうかといろいろ考えてつくっています」
一つ一つの店舗に尚子さんの想いが詰まっている。
2年前にオープンした「evam eva yamanashi」は、それらの集大成ともいえるところ。ひとつの独立した空間だからこそ、『evam eva』の世界観が思う存分に表現されている。
県内はもちろん、首都圏や関西、さらに遠くからも多くの人がここを目指してやって来る。『evam eva』の洋服が大好きな人、美味しいごはんを求めて来る人、ギャラリーをのぞきに来る人、建物が気になって見に来る人、さまざまな楽しみを抱きながら訪れている。
「来てくださった方それぞれが自分の時間を過ごせる場であったらいいなと思っています。ここで気持ちよさや心地よさを感じてもらえたらと思います」
「evam eva yamanashi」はまた、訪れる人だけでなく、迎える人にとっても大切な場所になっている。
「洋服を作る工程は地味な作業の繰り返しなので、誇れるものがないと想いを持って続けていくのは難しいと思うんです。だから商品を作っている人たちの近くに、核となるこの場所をつくれてよかったと思っています」
ここが作る人たちにとってさらに誇れるものになっていくように、ここからもっと発信していきたいという。
「まだまだここを知らない人は多いので、もっといろんな人に知ってもらって来てもらえるように、何か特別なことがなくても来たいと思ってもらえる場所にしていきたいと思っています。そして『evam eva』をもっと深くしていきたいと思います」
毎日見ている景色でも、見るたびに美しいなって思い、小さなことにも素敵だなって感動する。だから毎日がすごく刺激的、と話していた尚子さん。
そんな日々を過ごしている彼女だからこそ、あんなにも素敵なものをつくり出せるのだろう。これから先もどんなものを生み出し、発信していくのだろうか。


SHOP INFORMATION

山梨県中央市関原885


[色]
11:00 – 19:00
水曜定休
Tel 055-267-8341

[味]
11:30 – 21:30
水曜定休
火曜夜は休業
Tel 055-267-8342

[形]
11:00 – 19:00
金土日月祝日のみ営業
Tel 055-267-8343


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