「元宝塚男役」という一言ではとても言い表せない、
踊って歌って芝居をして喋る
甲州市出身の若きエンターテイナーがいる。
「え?肩書き?何だろう…?」チャーミングで柔らかい笑顔が、
長い手足に比べてキュッと小さすぎる顔にふわりと広がった。
男役としての長いキャリアに今新たな魅力がプラスされ、
限りのない広いフィールドを自由に泳ぐ優ひかるさんの素顔に迫る。

10代半ばで飛び込んだ未知の世界、宝塚

「子供の頃は近所の子たちと虫捕りをしたり塩山に登ったり、外で遊ぶのが好きでした。どちらかといえば活発な方だったと思います」
そんな優ひかるさんが宝塚入団を決意するきっかけとなったのが、小学6年生の時に観た宝塚の山梨公演だ。それ以来宝塚への思いは少しずつ膨らみ、受験へ向けての本格的な準備を初めて何と約1年で合格を手に入れた。約18倍の難関を突破し、受験一度目で見事宝塚音楽学校へ入学してからは、厳しいレッスンの日々が続いた。
「入学すると、同級生は踊りや歌などすごく上手な人ばかりで、私は短い準備期間で合格した分ついていくのに必死でした。コンプレックスを感じたり悩む暇も無いくらいとにかく毎日目の前のことに一生懸命取り組むのが精一杯でした。必死すぎて遊びたいとも思いませんでした。でも自分が好きなことをしていたので、気持ちが追い詰められるようなことはありませんでした。音楽学校時代もその後宝塚に入団してからも本当にたくさんの壁がありました。でもそれを乗り越えた時の達成感や、成長できたという実感を味わえた瞬間もあって、そういう経験が積み重なって忍耐力が付き人間として強くなることができたと思います」

があるから伝わることがある

宝塚歌劇団月組で9年間男役として活躍した優さんの心に、新しい未知のフィールドへの好奇心が芽生え始めた。
「退団された先輩方から、いつか退団のタイミングを感じる時が来る、と聞いていたんです。自分にもそんな瞬間がいつか来るのかなぁ、とその時は思っていましたが、不思議なくらい自然にやってきたんです。退団公演の時はやりきった感があったし、後悔や後ろ髪を引かれる思いはありませんでした。最後に全力で素敵な舞台を見せることを意識し、感謝の気持ちを胸に舞台に立ちました」
こうして2018年5月に宝塚歌劇団を退団した優さんは、現在山梨と東京を拠点に、ラジオ番組のパーソナリティーやシンガー、ダンス講師、モデルなど活躍の場を広げている。
「担当しているラジオ番組では、県内の様々な分野で活躍している方や宝塚の方など、毎回ゲストを呼んでお話を聞いているのですが、それがすごく新鮮でとても楽しいです。現役時代は宝塚という、ある意味狭い世界の中にいたので、外の知らない世界で夢を持って頑張っていらっしゃる方のお話はとても刺激的です。また、その話をゲストの方からうまく引き出して掘り下げられた時はさらに嬉しいです。自分自身が感動したり新たに発見したことを、ラジオを通して多くの人に伝えて共有することができるこの仕事にも喜びを感じています」
現役時代は舞台での踊りや歌を通してお客様に作品のメッセージや自分の思いを伝えていた。退団後もツールは違っても人に何かを伝える仕事という点では共通点がある。人に何かを伝える、ということについて優さんは宝塚時代にたくさんのことを学び、それは今の仕事の大きな糧になっていると感じている。
「17歳で初めて舞台に立つまでは、私は人見知りだったせいもあり、心底深く人と関わり合う経験が少なく、人に対する興味も正直浅かったと思います。でも宝塚に入って先生や先輩にとても厳しく怒られ、でもできた時はまるで自分のことのように一緒になって喜んでくれて、私のことを本当に思って寄り添ってくれる方々に育てていただき、私自身の人との関わり方も変わっていきました。どうしても人は自分よがりになってしまいがちですが、この人のためにとか、みんながもっと良くなるために、と思って頑張る、それは愛だなと思うんです。宝塚でたくさんの愛を受けて私は成長することができ、今の自分がいるのだと思います。愛があるから伝わる、ということを宝塚で学び、それは今のラジオのパーソナリティーとしての仕事やダンス講師として人に教えるという時にも大きな意味を持っています。ダンス講師をしてみて教えるって難しいな、とつくづく思いますが、生徒さんがとても楽しんでいてくれたり、上手にできるようになったことがあると、すごく喜びは大きいです。」

最近は美味しいカフェやおしゃれな
お店などが増えたので、そういうお店を探すのも好きです。

オフは好きなことでリフレッシュ

仕事以外のプライベートはどんなふうに過ごしているのかも気になるところ。現役時代はどこでファンが見ているか分からないので、楽屋に入る時や出る時はもちろん常に他人の目があると意識して生活していた優さん。今はスケジュール的にも当時より余裕が出て、気持ちにもゆとりが持てるようになった。オフの日はドライブに出かけてリフレッシュすることも多いという。
「自然を満喫できる清里や富士五湖方面にドライブに行くことが多いです。行きたいと思った時にパッと行っちゃいます。景色が雄大で、夏でも涼しくて窓を開けて走るとひんやりとした風が入ってきて気持ちがいい。最近は美味しいカフェやおしゃれなお店などが増えたので、そういうお店を探すのも好きです。ラジオ番組のゲストで宝塚の方を呼んだ時は、せっかく山梨に来てくれたからとドライブに誘うことが多いです。東京から程よい距離感の山梨で、たっぷりの自然に癒されて皆さん喜んで帰って行かれます。」
センスの光る素敵なファッションで取材の日も登場してくれた優さんは、大の買い物好きだとか。都内はもちろん御殿場や入間のアウトレットにもショッピングに出かける。どんなふうに服を選ぶのだろうか。
「私は男役だったので着るものはメンズもの、スカートは13年くらい履いていませんでした。海外に行った時もずっとパンツでした。役作りのためでもあったのですが、いつどこにファンの方がいるか分からないので、男役はスカートは履かない、みたいな暗黙の了解がありました。オフの時のメイクもピンク系は可愛らしいイメージになるので、オレンジ系のボーイッシュな色味を選んでいました。髪も短かったので当時の写真を見ると今よりキリリとした印象です。退団後に友人の結婚式で久しぶりにスカートを履いた時、家から出るのが恥ずかしくて仕方がなかったのを覚えています。足も妙にスースーして。今はヒールの靴も履けるし、自分が着たい服を着られる喜びを感じています。」
優さんが今最も癒しを感じているのが愛犬のペロちゃん。2歳半になるトイプードルで、いつもピトッと寄り添ってきて寝る時ももちろん一緒、とにかく可愛くて仕方がないという。
「宝塚で一人暮らしをしていた時から飼っています。欲しくて欲しくてブリーダーさんの所に通ってついに運命的に出会ったんです。トイプードルは小さくて室内で飼えるし、散歩は一日一回15分ぐらいで良いので世話は楽な方だと思います。ドライブに一緒に連れて行ったり、フルーツパークのドッグランに連れて行って遊ばせたりしています。可愛くていつも癒されています。」


[撮影協力]
gris tea & pastries
富士河口湖町長浜1910-1
080-1263-2122
https://gris-cafe.com

良く寝て良く食べて良く笑って
ストレスを溜めない、それが健康の秘訣です。

未だ見ぬ輝きと色彩を求め続けて。

優さんの笑顔は相手をホッとさせるような柔らかさがあると同時に、生命力に溢れたピュアなエネルギーに満ちている。体の内側から美しくなり心が健康であるために何か心がけていることがあるに違いないと探ってみたくなった。
「現役時代は舞台と練習に追われる日々で、すごく体が疲れていました。風邪をひいて声が出ないと困るので、休みの日も体のメンテナンスでいっぱいいっぱいで、それでも体調を崩すことがしばしばでした。でも今は睡眠をしっかり摂れて、実家でちゃんと栄養のある食事が食べられて心に余裕が持てるようになったせいか、退団後は一度も風邪をひいていません。良く寝て良く食べて良く笑ってストレスを溜めない、それが健康の秘訣ですかね。」
男役を卒業して約1年半、新しい世界を自由に泳ぐ優さんには現役時代に培われたキャリアにまた違った魅力がプラスされ、これからも変わっていく余白がたくさんあるように感じられた。
「好奇心が旺盛なので、やってみようと思ったらやらないと気が済まないタイプです。やってみないと分からないし、失敗してしまってもそれは経験になります。意外とこれが自分には合っているんだと気付く場合もあると思います。今はまだ模索中ではありますが、元宝塚というだけでなく、それ以外にも何か注目していただけるような武器になることを見つけられたらと思います。この仕事はここが終わりみたいなゴールとか、数式みたいな答えがあるわけではないので、常に全力で挑みながらも満足せず停滞せずさらなる高みを目指して成長し続けたいと意識しています。そして男役だったことでスタイリッシュな印象を持たれやすいメリットはあります。これからはそれを活かしつつ同時に女子力も磨いていけたらいいなと思います。女性としてプライベートも充実させたいですが、仕事はずっと続けていきたいです。人から見てこの人すごく幸せそうだな、楽しそうだな、カッコイイなと思ってもらえるキラキラ輝いているような女性になりたいです。」
10代半ばで宝塚によって見出された優ひかるという原石は、宝塚によって磨かれ、そして今優さんは自らの手で磨き続けることで未だ見ぬ輝きを求め続けている。そんな優さんに同世代の若者へのメッセージをお願いした。
「何か夢中になれること、気になっていることがあったら恐れずにどんどんやって欲しいと思います。結果がすぐに出なかったり思い通りにいかないこともあるかもしれません。でもそれに向かって努力したことは絶対に自分のためになっていると思います。人間だから悩んだり苦しんだりする時もあると思います。でもそれも含めての今の自分なので、乗り越えていって欲しいです。私も頑張ります。」


[撮影協力]
pamonirupuff × yamanecoya
笛吹市御坂町尾山195
055-268-2332
https://cafe-16860.business.site

山梨の豊かな自然に包まれると、また頑張ろう、という気持ちがわいてきます。
[撮影協力] トヨタレンタリース山梨 http://www.trl-y.com

優 ひかる

山梨県甲州市 生まれ。
山梨英和中学校卒業後、宝塚音楽学校入学。
2009年宝塚歌劇団入団(95期生)。月組に在籍し、男役として「風と共に去りぬ」、「ベルサイユのばら」、「1789」、「ロミオとジュリエット」などに出演。2018年5月に宝塚歌劇団退団後は、YBSラジオ「優ひかるのシャイニングタイム」のパーソナリティー、歌手、ダンス講師、イベントMCなど幅広く活躍している。

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