突然の来訪。
僕の真空管アンプの製作者であり、糸ドライブのターンテーブルを薦めてくれた
アンサンブル工房の矢崎さんがサウンドハウスハーモニーに寄った帰りにはじめて我が家を訪ねるという。
5時頃行くよ。と何の心の準備もなかったから、あせったあせった。後一時間もない・・・
アンプには灯を入れてあったから安心だが、今日プレーヤーは、午前中少し鳴らしただけだ。
とにかく部屋を片付けて、コーヒーの豆を挽いた。
こんな時何をすればと考えたが、あえてレコードはかけずにテープを鳴らしてスピーカーとアンプを慣らしておいた。
音のバランスは良さそう。
いつも矢崎さんのシステムの何とも言えない良い音を聴かせていただいている身とすれば
抜き打ちのテストを受ける気分。矢崎さんとはシステムとはスケールも違うけれど、それなりの音は鳴らしたい。
それが日頃色々啓示いただいてている恩返しだと思う。
救い?といえば突然で時間がないことだ。何をするにも開き直るしかない。
「やぁこんにちは」矢崎さんが道案内をしてくれたオーディオ仲間のMさんとニコニコしながらやってきた。
「どうだい糸ドライブのモータの調子は?ちゃんと回転が合いますか?」
とさっそくターンテーブルのほうに近づく。ターンテーブルは慣らし回転をしておいた。レコードは乗っていない。
昨晩録音したカセットテープからエバンスが流れている。
「音の抜けがいいな。この部屋だからかな?」
そう我が家は無意味な吹き抜けが唯一のとりえ?無駄な空間といえばそうなのだが
この部屋のおかげで音がこもらない。
「レコードをかけますか?」とりあえず様子をみるために無難なピアノトリオを選んだ。
しかしなぜか最近全然聴いていないミシェル・サダビィ(はて?これってどんな音だったっけ)
針を落とす手が震える。「コーヒー入れますね」
案の定、ほどほどの音がなっている。その間。しげしげと装置を眺める矢崎さん。
「何だかそうやって見られると緊張しますね」
むずむずしながらコーヒーを入れる僕。
「ちょっとモーターの位置を上げたほうがいいな。プーリーの上に糸があたると切れやすくなる」
「そうかそれで下のほうがテーパーになってるのですね」
その場でモーターの台にゴム板を少しかました。すると糸はするすると下りてくる。
「この位置がいいんだよ」僕がレコードをかけなおそうとすると「キャノンボールが聴きたいな、ありますか?」
来た!リクエスト。矢崎さんはキャノンボールが好きだ。僕はブルーノートのサムシンエルス選んだ。
ボリュームのレベルを二つほど上げる。
ズンズクズンズン・・・・突然マイルスの鋭いミュートが部屋を切り裂く。
部屋の中が一瞬静まり返る!?そんな気がした。息を呑む。
・・・・・・・・・・・
厳かなマイルスのテーマ。
満を期してキャノンボールのみずみずしい華麗なアルトサックス。
ほっとため息が出る。
矢崎さんは一番良い場所で正座して耳の高さを合わしている。
「やっぱりジャズはジムランだな」矢崎さんがぼそりとそう言った。「ウーハーはD130か・・・」
うれしい!完璧な音じゃないにしてもそう思ってくれただけで僕のジャズへの想いは伝わったのかもしれない。
その後色々ジムラン(矢崎さんはJBLを懐かしいこの呼び方をする)の話(バックロードやら逆相の話)で盛り上がり
一時間ほどでご帰宅になった。
帰り際に良かったですか?と訊ねると
「良かったよ!もう少し音に広がりが出るとさらにいい。
プレーヤーが置いてある台をもっと頑丈にすればいいな。ちょっとそこが気になった」
やはりそれは気になっていたところ。次の目標です。でも合格点はいただけたのかな?
それにしても自分の音を聴かれることは人格をさらけだすのと同じこと。
決してお金をかけた良い機器が良い音を奏でるとは限らない。
どこに自分のこだわり(夢)を乗せるかだ。日々精進が必要。
マイルスのミュートの響きが頭に残っている。あの音は忘れないだろう。
まだまだ夢はつづく・・・


