笛吹市・芦川
清流と森のキャンプ場を訪ねて。

文・甲州千秋 ／ 写真・功刀将長

自分らしいスタイルで、自然と寄り添う気ままな時間。

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　笛吹市の山間部にある小さな集落、芦川町。御坂山系の黒岳を源とする芦川の流れに沿った道からは、古い石垣と段々畑が随所に見られる。山地の傾斜を畑として活用するために、先人たちが知恵と努力を積み重ね、つくり上げていったものだろう。人と自然が共存する暮らしの風景がここにはある。
　芦川の町からキャンプ場に向かう道に入ると、途端にあたりは木々に覆われて、未舗装の坂道になった。空気まで緑色に染まるような森の中の道を進んだ先にある「芦川オートキャンプ場」が今回の目的地だ。
　受付を済ませ、渓流沿いのサイトに乗り入れた。
　周囲を美しい森林に囲まれたキャンプ場内の川は緩やかに流れ、川遊びや散策が楽しめる快適なロケーションだ。さっそくテントを設営し、焚き火台などのキャンプ道具をセッティングした。
　キャンプ道具には自分なりのこだわりがある。それは便利さより、自分にとっての心地良さだ。例えばランタンも、今はLEDが主流になっているが、やはり炎が魅せてくれる雰囲気は他では替えがきかないと思う。中でもアンティークランタンの時代を感じさせる佇まいは、自然の中で過ごす時間に特別な感覚を与えてくれるような気がする。自然に溶け込むナチュラルさと、少しレトロな雰囲気が漂うモノたちが好きだ。
　芦川はヤマメやイワナなどがよく釣れることで知られている清流だ。普段なら、ルアーで天然の魚たちに挑むところだ。でも今回はキャンプをメインにして、いつもよりのんびりと自然と親しむ時間を味わうために、キャンプ場内の釣り堀でニジマスのエサ釣りを楽しむことにしよう。ルアーフィッシングがアクティブな釣りであるのに対し、エサ釣りは「待つ」釣りだ。たまにはそんなリラックスした釣りもいい。そして釣れた魚で晩ごはんを作り、ソロキャンプでゆったりとした一夜を過ごしたい。

釣りと星空と朝もやの森。輝きに満ちた自然の中で…。

　このキャンプ場の釣り堀は、豊かな自然環境に囲まれ、水が澄んでいて泳ぐ魚の姿もよく見える。釣り堀でのエサ釣りは、初心者や子どもでも、手軽に釣りの楽しさを味わえるのも魅力だ。しかし手軽な中にも釣りの深さを感じ取ることはできる。それはウキが水中に引き込まれる一瞬を見逃さずに合わせる瞬間だ。初心者や子どもなら尚更、釣竿から伝わってくる手応えから感じる魚の存在感に驚きと感動があるだろう。
　ニジマスを釣り上げた子どもの歓声が聞こえてきた時、ふと幼い頃のことを思い出した。小麦粉をベースにしたエサを自分で作り、近所の池によく鯉を釣りに行った。体長40㎝以上ある鯉は、子どもにはとてつもない大物で引きもすごかった。楽しくて楽しくて、飽きずに釣っていたものだ。そんな経験が今の釣り好きにつながっているのだろう。自然の中で自分の体で体験し、心で感じた経験は、いつまでも自分の中の大切な部分を支えてくれるものなのかもしれない。
　さっきまでの青空がいつの間にか雲に覆われ、夕立がやってきた。雨がやむとひぐらしが鳴き始め、耳を澄ますとどこからか秋の虫の声が聴こえる。季節は夏から秋へ確実に進んでいることを生き物や吹き抜ける風の温度が教えてくれた。火を起こすと薪が赤々とした炎をあげた、火が落ち着いたところで調理にかかる。今夜のメニューはニジマスの塩焼きとホイル焼きだ。いい匂いがしてきた、立ちのぼる煙を追うように空を見上げると、そこには星が煌めいていた。月明かりも美しく森と川を照らしている。食事の後はしばらく焚き火をしながら、流れ星を待った。そして夜は静かに更けて行った。
　翌朝は早起きをして朝食の前に散歩をした。周囲は朝もやに包まれ、木々の間からいく筋もの光が真っ直ぐに差していた。森は深い輝きに満ちた幻想的な姿を魅せてくれた。鳥のさえずりも響いている、今日は良い天気になりそうだ。心地良い一日が生まれていく…あらゆる生命が息づいている。自然とひとつになった一泊二日のソロキャンプ。それは少しのノスタルジアと、新しい風景を心に描く時間になった。

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